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  9、有限要素法を用いる計算

9-1、計算

 深さ900mm、外径900mm、厚さ6mmのステンレスでできた槽に入った溶液を槽外面からシーズヒーターで130℃に暖めたい。シーズヒーターのワット密度はいくつまであげられるか。シーズヒーターの外径は16mm、巻きつけピッチは40mmとし、シーズヒーターの周囲には伝熱セメントを充填します。熱伝導率はステンレス16.8、マグネシア37、伝熱セメント9W/m℃、溶液の対流熱伝達率300w/m2℃とします。

 マグネシアを充填したシーズヒーターでは発熱線が600℃を越えるとMgOと発熱線の保護皮膜であるCr2O3が複雑に反応しCr203・MgO(クロマグ)(黄褐色、緑色と変化する)を生成し、発熱線表面からCrを移動させ、更にNiとMgOが反応して黒色化となり肉やせ、局部的高温を引き起こし反応をさらに加速させ、,また、マグネシア層中に移動したCrおよびNi酸化物による絶縁低下により断線するといわれています。ここでは発熱線が500℃のときの被加熱体への伝熱量を計算します。
外径が大きいので平面として考えます。槽を縦にカットし、ヒーターの中央からピッチの中央まで、槽内面からヒーターの中央までの四角の断面を取り出し、多数の部分に切り分け、それぞれの部分の温度を計算し、その上で被加熱体に面した部分の槽温度と被加熱体温度とから各接液部分の伝熱量を計算し、それらの合計伝熱量を求めます。合計伝熱量をシーズヒーター発熱表面積で割ってワット密度を求めます。
 まず、計算に先立って、各素材の熱伝導率λ、被加熱対象物の対流熱伝達率hを調べておきます。
 槽内面からヒーターの中央までをA方向とし、6mm、4mm、4mmに3分割します。ヒーターの中央からピッチの中央までをB方向とし、5mm、5mm、5mm、5mmに4分割します。この四角のそれぞれに右上がりの対角線を入れ、24分割とします。有限要素法では任意の三角形を描きひとつの要素とするものですが、本ソフトでは計算の簡略化と、わかりやすくするために、直角三角形を要素とすることとします。要素の番号の振り方は任意でもできますが、わかりやすくするために、ここでは、左列の下から上へ、列を右へ移して下から上へ、と番号を付けることにします。
 ソフトを起動し、加熱計算-要素法とクリックして出てきた画面に準備したデータを記入します。T列にはT1、T2・・・と要素番号を入れます。λ、A、B欄には先に調べた値を要素番号に合わせて入れます。要素データの記入に続けて被加熱対象物のデータを入れます。T欄にT00、λ欄に対流熱伝達率300、A欄に温度130を入れます。次いで、ヒーターのある部分の要素番号T17を入れ、A欄にヒーター温度500を入れます。次に、各要素ごとに要素に接触している要素の番号を上下面接触なら接触面A欄に、左右面接触なら接触面B欄に、斜め面接触なら接触面C欄に記入します。槽の径900(mm)X3.14=2826を1列4行欄に記入します。
 データの記入が終えたら、要素法ボタン右の実行ボタンをクリックします。「条件データを保存しますか」と出ますので、OKをクリックし、覚えやすい名前を付けて保存してください。再度、実行ボタンをクリックしてください。下-右にカーソルを移動し、行列式ができていることを確認し、別の名前を付けて保存してください。行列式を保存した名前をメモ一覧から選んでクリックし、デスクトップ保存をクリックしてください。
 デスクトップのファイルを開き行列式を計算します。ファイルを開き、少し下へ送り、T1,T2・・・が横に並んだところでMMULTの文字が見えるまで右へ送り、MMULTのあるセルをクリックして数字バーに表示させます。MMULT(MINVERSE(C32:Z55)、AB32:AB55)のセル番号が行列式のセルと一致していることを確認し、コピーします。MMULTのある列の下のT1-T24行をドラッグし、その状態で数字バーにペーストします。先頭にカーソルを移し「=」を記入します。これにより、行列式に枠が表示されます。行列式と枠が一致していればOKです。この状態で、ShiftとCtrlを押したままEnterを押します。各要素の温度℃が表示されます。槽から溶液への伝熱量はQ=(溶液に接した要素の温度-溶液温度)X溶液の対流熱伝達率X伝熱面積で得られます。溶液への伝熱面を持つ要素について、結果を表示した右の欄に「=(結果セル-130)*300*0.005*2826/1000」とm単位で入れます。MMULTのセルの右に=SUM(xx、yy)を入れ加算し、2倍し伝熱量を出します。これを伝熱面積で割って8.2w/cm2を得ます。
 シーズヒーターなどの使用上限温度といわれる600℃ではこの値は10.4w/cm2となります。

 有限要素法では要素の採り方にかなり大雑把なところがあります。したがって、結果にはある程度の誤差が入り込みます。 

9-2、約束

 有限要素法の煩雑な計算を簡略化するために、いくつかの約束事をこのソフトではしていますので、それを守ってください。
要素は直角三角形とする
要素などに付ける番号(名前)
要素:T1〜T52の文字番号
要素番号は左下から上へ向かって、次いで、左から右へ向かってつける。
周囲の流体(被加熱物)の温度:T00〜T09の文字番号
周囲の固体(接触物)の温度:T000〜T009の文字番号
周囲の流体の対流熱伝達率hはλ欄に記入、温度はA欄に記入
周囲の固体の温度はA欄に記入
周囲の流体、固体の温度は既知
周囲の固体の熱伝導率は充分に大きく、固体内に温度差がない、また、温度が一定である。

9-3、補足

1、λ、A,B欄を記入するとき同じ数値を記入するケースが多いです。
  この場合、λ、A,B欄の上の欄にその数値(本例であれば、λ欄16.8、A欄6、B欄5)を入れ、同じ数字を書き込む行数(本例であれば、8)をT欄の上の欄に記入し、左上方の「メモ一覧」という文字の上をダブルクリックします。同様に同じ数値を数行入れるにはその行数を加えた数をT欄の上の欄に記入します。
2、データを記入し終えたら、必ず保存してください。この段階で保存しておけば、後で、数値の一部を変更するなど使用する時に再入力しなくて済みます。なお、入力途中画面を保存することは自由です。自分で管理しやすい適当な名前を付けて保存してください。
 また、計算途中で、熱伝導率を変更したい場合には、左上隅欄に「λ16.8T3T18」の要領で英数字をいれ、実行をクリックするとT3-T18のデータ欄に16.8が入ります。「λ」は画面からコピーペーストしてください。
3、実行をクリックすると保存を促す画面が出ます。既にこのデータが保存済みであるときはNOをクリックし、再度実行してください。計算結果を一度保存します。一覧から保存したファイルをクリックして選んでデスクトップ保存をします。
4、入力途中で始めからやり直したいときはメモ一覧パネルの空いているところをダブルクリックするとクリアーされます。もし、メモ一覧に記入したい内容に近い内容のファイルがあれば、それをクリックして必要な部分を修正・追加すれば早いです。

 




熱伝達計算の式 

  計算には他にもいろいろ計算式、実験式がありますが、ここでは下の式を用いました。

1、被加熱対象物への伝熱量 
   
  Q=h・s(Tg-Ts)                     Q:被加熱対象物への伝熱量
                                 Tg:外側表面温度 
                                 Ts:被加熱対象物温度
                                 s:伝熱面積
                                 h:対流熱伝達率

2、ひとつの要素内に異なる熱導電率を有する複数の素材があるときの熱伝達率
  
  1)、面積比率が大きく異なるとき
     面積が大きい方の熱伝達率を用いる
  2)、面積の差が少ないのとき
     Aの熱伝達率λ1
     Bの熱伝達率λ2     とすると λ=1/(1/λ1+1/λ2) を用いる
     
          

 

 

 


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